作庭記は平安時代に書かれた日本最古の庭園書です。この本は寝殿造の庭園に関することが書かれており、その内

容は意匠と施工法であるが図は全く無く、すべて文章となっている。作者や編纂時期については諸説あるが、橘俊

綱であるとする説が有力となっています。作庭書の原点をご一読あれ。

作 庭 記

1,石をたてん事、まづ大旨をこゝろふべき也。

一、形により、池のすがたにしたがひて、よりくる所々に、風情をめ□□□□、生得の山水をおもはへて、その所

々は□こそありしかと、おもひよせ—たつべきなり。

一、むかしの上手のたてをきたるありさまをあととして、家主の意趣を心にかけて、我風情をめぐらして、してた

つべき也。

一、国々の名所をおもひめぐらして、おもしろき所々を、わがものになして、おほすがた、そのところになずらへ

て、やハらげたつべき也。

 

,殿舎をつくるとき、その荘厳のために、山をつきし、これも祇薗図経にみえたり。

池をほり石をたてん所にハ、先地形をミたて、たよりにしたがひて、池のすがたをほり、嶋々をつくり、池へいる

水落ならびに池のしりをいだすべき方角を、さだむべき也。南庭ををく事は、階隠の外のハしらより、池の汀にい

たるまで六七丈、若内裏儀式ならば、八九丈にもをよぶべし。礼拝事用意あるべきゆへ也。但一町の家の南面に、

いけをほらんに、庭を八九丈をかバ、池の心いくバくならざん歟。よく—用意あるべし。堂社などにハ四五丈も難

あるべからず。

 

,又嶋ををくことは、所のありさまにしたがひ、池寛狭によるべし。但しかるべき所ならば、法として嶋のさき

を寝殿のなかバにあてゝ、うしろに楽屋あらしめんこと、よういあるべし。楽屋は七八丈にをよぶ事なれバ、嶋ハ

かまへて、ひろくおかまほしけれど、池によるべきことなれバ、ひきさがりたる嶋などををきて、かりいたじき

を、しきつゞくべきなり。かりいたじきをしくことは、嶋のせばきゆへなり。いかにも楽屋のまへに、嶋のおほく

みゆべき也。しかれバそのところををきて、ふそくのところニ、かりいたじきをバしくべきとぞ、うけたまはりお

きて侍る。又そりハしのしたの晴の方よりみえたるハ、よにわろき事なり。しかれバ橋のしたにハ、大なる石をあ

またたつるなり。又嶋より橋をわたすこと、正く橋がくしの西のハしらに、あつべきなり。又山をつき野すぢをを

くことは、地形により、池のすがたにしたがふべきなり。又透渡殿のハしらをば、ミじかくきりなして、いかめし

くおほきなる山石のかどあるを、たてしむべきなり。又釣殿の柱に、おほきなる石を、すゑしむべし。

 

,又□ならびに嶋の石をたてんには、当時水をまかせてミんことかなひがたくは、水はかりをすゑしめて、つり

殿のすのこのしたげたと、水のおもとのあひだ、四五寸あらむほどをはからひて、所々にみぎりしるしをたておき

て、石のそこへ入り、水にかくれんほど、水のおもてより□□んほどを、あひはからふべきなり。池の石は、そこ

よりつよくもたえたるつめいしををきて、たてあげつれば、年をふれども、くづれたふるゝことなし。水のひたる

ときもなをおもしろくミゆるなり。嶋ををくことも、ハじめよりそのすがたにきりたてゝ、ほりおきつれバ、その

きしにきりかけ—たてつる石は、水まかせてのち、その岸ほとびて、立たる石たもつことなし。たゞおほすがたを

とりおきて、石をたてゝのち、次第に嶋のかたちには、きざミなすべきなり。又池ならびにやり水の尻ハ、未申の

方へいだすべし。青竜の水を白虎の方へ、出すべきゆへなり。池尻の水をちの横石は、つり殿のしたげたのしたば

より、水のおもにいたるまで、四寸五寸をつねにあらしめて、それにすぎバ、ながれいんでんずるほどを、はから

ひて居べきなり。

凡滝左右、嶋のさき、山のほとりのほかは、たかき石をたつる事、まれなるべし。なかにも庭上ニ、屋ちかく三

尺にあまりぬる石を、たつるべからず。これををかしつれバ、あるじ居とゞまる事なくして、つひに荒廃の地とな

るべしといへり。又はなれいしハ、あらいそのおき、山のさき、島のさきに、たつべきかとか。はなれ石の根に

ハ、水のうへにみえぬほどに、おほきなる石を、両三みつがなえにほりしづめて、その中にたてゝ、つめ石をうち

いるべし。

 

,一、池もなく遣水もなき所に、石をたつる事あり。これを枯山水となづく。その枯山水の様ハ、片山のきし、

或野筋などをつくりいでて、それにつきて石をたつるなり。又ひとへに山里などのやうに、おもしろくせんとおも

ハバ、たかき山を屋ちかくまうけて、その山のいただきよりすそざまへ、石をせうせうたてくだして、このいゑを

つくらむと、山のかたそわをくづし、地をひきけるあひだ、おのづからほりあらはされたりける石の、そこふかき

とこなめにて、ほりのくべくもなくて、そのうゑもしハ石のかたかどなんどに、つかハしらをも、きりかけたるて

いにすべきなり。又物ひとつにとりつき、小山のさき、樹のもと、つかハしらのほとりなむどに、石をたつること

あるべし。但庭のおもにハ石をたて、せんざいをうへむこと、階下の座などしかむこと、よういあるべきとか。す

べて石ハ、立る事ハすくなく、臥ることはおほし。しかれども石ぶせとはいはざるか。

 

,石をたつるにハやうやうあるべし

大海のやう、大河のやう、山河のやう、沼池のやう、葦手のやう等なり

一、大海様ハ、先あらいそのありさまを、たつべきなり。そのあらいそハ、きしのほとりにはしたなくさきいでた

る石どもをたてて、みぎハをとこねになして、たちいでたる石、あまたおきざまへたてわたして、はなれいでたる

石も、せうせうあるべし。これハミな浪のきびしくかくるところにて、あらひいだせるすがたなるべし。さて所々

に洲崎白はまみえわたりて、松などあらしむべきなり。

 

,一、大河のやうは、そのすがた竜蚫のゆけるみちのごとくなるべし。先方をたつることは、まづ水のまがれる

ところをハじめとして、おも石のかどあるを一たてて、その石のこはんを、かぎりとすべし。口伝アリ。

その次々をたてくだすべき事。水ハむかう方をつくすものなれバ、山も洋もたもつ事なし。その石にあたりぬる水

ハ、そのところよりおれ、もしハたわミて、つよくいけば、そのすゑをおもハヘて、又石をたつべきなり。そのす

ゑずゑこのこころをえて、次第に風情をかへつつたてくだすべし。石をたてん所々の遠近多少、ところのありさま

にしたがひ、当時の意楽によるべし。水ハ左右つまりて、ほそくおちくだるところハ、はやけれバ、すこしきひろ

まりになりて、水のゆきよハる所に、白洲をバをくなり。中石はしかのごときなるところにをくべし。いかにも、

中石あらハれぬれバ、その石のしもざまに、洲をバおくなるべし。

一、山河様ハ、石をしげくたてくだして、ここかしこにつたひ石あるべし。又水の中に石をたてて、左右へ水をわ

かちつれバ、その左右のみぎハには、ほりしづめた石をあらしむべし。

 已上両河のやうは、やりみづにもちゐるべきなり。やりみづにも、ひとつを単一両につみわづらふほどなる石の

よきなり。

 

,一、沼様ハ、石をたつることはまれにして、ここかしこのいり江に、あし、かつミ、あやめ、かきつ、はたや

うの水草をあらしめて、とりたてたる島などはなくて、水のおもてを眇々とみすべきなり。□□□といふハ、溝の

水の入集れるたまり水也。しかれバ、水の出入の所あるべからず。水をバおもひがけぬところより、かくしいるべ

きなり。又水のおもてを、たかくみすべし。

一、葦手様は、山などたかからずして、野筋のすゑ池のみぎハなどに、石所々たてて、そのわきわきに、ござさ、

やますげやうの草うゑて、樹にハ梅柳等のたをやかなる木をこのミうふべし。すべてこのやうハ、ひららかなる石

を品文字等にたてわたして、それにとりつきつき、いとたかからず、しげからぬせんざいどもをうふべきとか。

石のやうやうをば、ひとすぢにもちゐたてよとにはあらず。池のすがた地のありさまにしたがひて、ひとついけ

に、かれこれのやうをひきあハせてもちゐることもあるべし。池のひろきところ、しまのほとりなどにハ、海のや

うをまねび、野筋のうへにハ、あしでのやうをまなびなんどして、ただよりくるにしたがふなり。よくもしらぬ人

の、いづれのやうぞなどとふハ、いとおかし。

 

,一、池河のみぎはの様々をいふ事

鋤鉾 形。池ならびに河のみぎハの白浜ハ、すきさきのごとくとがり、くわがたのごとくゑりいるべきなり。この

すがたをなすときは、石をバうちあがりてたつべし。

池のいし□海をまなぶ事なれバ、かならずいはねなみがへしのいしをたつべし。

10,嶋姿の様々をいふ事

 山嶋、野嶋、杜島、礒島、雲形、霞形、洲浜形、片流、干潟、松皮等也

一、山しまは、池のなかに山をつきて、いれちがへかへ高下をあらしめて、ときは木をしげくうふべし。前にハし

らはまをあらせて、山ぎハならびにみぎハに、石をたつべし。

一、野嶋は、ひきちがへかへ野筋をやりて、所々におせばかりさしいでたる石をたてて、それをたよりとして、秋

の草などをうゑて、ひまひまにハ、こけなどをふすべきなり。これもまへにハ、しらはまをあらしむべし。

一、杜しまは、ただ平地に樹をまバらにうゑみてて、こしげきに、したをすかして、木のねにとりつきつき、めに

たたぬほどの石を、少々たてて、しばをもふせ、すなごをも、ちらすべきなり。

一、礒しまは、たちあがりたる石をところどころにたてて、その石のこはんにしたがひて、浪うちの石をあららか

にたてわたして、その高石のひまひまに、いとたかからぬ松の、おひてすぐりたるすがたなるが、みどりふかき

を、ところどころうふべきなり。

 

11,一、雲がたハ、雲の風にふきなびかされて、そびけわたりたるすがたにして、石もなく、うゑ木もなくて、ひ

たしらすにてあるべし。

一、霞形ハ、池のおもてをみわたせば、あさみどりのそらに、かすミのたちわたれるがごとく、ふたかさね三かさ

ねにもいれちがへて、ほそぼそと、ここかしこたぎれわたりみゆべきなり。これも、いしもなくうゑきもなき白洲

なるべし。

一、洲浜がたはつねのごとし。但ことうるわしく紺の文などのごとくなるはわろし。おなじすわまがたなれども、

或ハひきのべたるがごとし、或ハゆがめるがごとし、或せなかあハせにうちちがへたるがごとし、或すはまのかた

ちかとみれども、さすがにあらぬさまにみゆべきなり。これにすなごちらしたるうゑに、小松などの少々あるべき

なり。

一、片流様ハ、とかくの風流なく、ほそながに水のながしをきたるすがたなるべし。

一、干潟様ハ、しほのひあがりたるあとのごとく、なかバハあらハれ、なかバハ水にひたるがごとくにして、おの

づから石少々みゆべきなり。樹ハあるべからず。

一、松皮様ハ、まつかはずりのごとく、とかくちがひたるやうにて、たぎれぬべきやうにみゆるところあるべきな

り。これハ石樹ありてもなくても、人のこころにまかすべし。

 

12,一、滝を立る次第

滝をたてんには、先水をちのいしをえらぶべきなり。そのみづおちの石ハ、作石のごとくにして、面うるわしきハ

興なし。滝三四尺にもなりぬれバ、山石の水をちうるわしくして、面くせばミたらむを、もちゐるべきなり。但水

をちよく面くせバみたりといふとも、左右のわき石よせたてむに、おもひあふ事なくは、無益なり。水溶面よくし

て、左右のわきいしおもひあひぬべからむ石をたておほせて、ちりばかりもゆがめず、ねをかためてのち、左右の

わき石をバ、よせたてしむべき也。その左右のわきいしと水落の石とのあひだハ、なん尺何丈もあれ、底よりいた

だきにいたるまで、はにつちをたわやかにうちなして、あつくぬりあげてのち、石まぜにただのつちをもいれて、

つきかたむべきなり。滝ハまづこれをよくよくしたたむべきなり。そのつぎに右方はれならば、左方のわきいしの

かみにそへて、よき石のたちあがりたるをたて、右のかたのわきいしのうゑに、すこしひきにて、左の石みゆるほ

どにたつべし。左方はれならば、右の次第をもちて、ちがへたつべし。さてそのかみざまは、ひらなる石をせうせ

うたてわたすべし。それもひとへに水のみちの左右に、やりみづなどのごとくたてたるはわろし。ただわすれざま

に、うちちらしても、水をそばへやるまじきやうを、おもはへてたつべきなり。中石のをせさしいでたる、せうせ

うあるべし。次左右のわき石のまへによき石の半ばかりひきをとりたるをよせたてて、その次々は、そのいしのこ

はんにしたがひて、たてくだすべし。滝のまヘハ、ことのほかにひろくて、中石などあまたありて、水を左右へわ

かちながしたるが、わりなきなり。その次々ハ遣水の儀式なるべし。滝のおちやうハ様々あり。人のこのミによる

べし。はなれをちをこのまば、面によこかどきびしき水落の石を、すこし前へかたぶけて居べし。

つたひおちをこのまば、すこしみづおちのおもてのかどたふれたる石を、ちりばかりのけばらせてたつべきなり。

つたひおちハ、うるわしくいとをくりかけたるやうに、おとす事もあり。二三重ひきさがりたる前石をよせたてて

左右へとかくやりちがへて、おとす事もあるべし。

 

13,滝を高くたてむ事、京中にハありがたからむか。但内裏なんどならば、などかなからむ。或人の申侍しハ、一

条のおほぢと東寺の塔の空輪のたかさは、ひとしきとかや。しからば、かみざまより水路にすこしづつ左右のつつ

みをつきくだして、滝のうへにいたるまで用意をいたさば、四尺五尺にハなどかたてざらんぞとおぼえ侍る。

 又滝の水落のはたばりは、高下にハよらざるか。生得の滝をみるに、高き滝かならずしもひろからず、ひきなる

滝かならずしもせばからず。ただみづおちの石の寛狭によるべきなり。但三四尺のたきにいたりてハ、二尺余にハ

すぐべからず。ひきなる滝のひろきハ、かたがたのなんあり。一二ハ滝のたけひきにミゆ。一にハ井せきにまが

ふ。一にハたきののどあらはにみえぬれバ、あさまにみゆる事あり。滝ハおもひがけぬいはのはざまなどより、お

ちたるやうにみえぬれバ、こぐらくこころにくきなり。されば水をまげかけて、のどみゆるところにハ、よき石を

水落の石のうゑにあたるところにたてつれバ、とをくてハ、いわのなかよりいづるやうにみゆるなり。

 

14,一、滝のおつる様々をいふ事

 向落、片落、伝落、離落、稜落、布落、糸落、重落、左右落、横落

むかひをちは、むかひて、うるわしくおなじほどにおつべきなり。

かたおちは、左よりそへておとしつれバ、水をうけたるかしらあるまへ石の、たかさもひろさも、水落の石の半に

あたるを、左のかたによせたてて、その石のかしらにあたりて、よこざまにしらミわたりで右よりおつるなり。つ

たひおちは、石のひだにしたがひて、つたひおつるなり。はなれおちハ、水落に一面にかどある石をたてて、上の

水をよどめずして、はやくあてつれバ、はなれおつるなり。

そばおちは、たきのおもてをすこしそバむけて、そばをはれのかたよりみせしむるなり。

布をちは、水落におもてうるわしき石をたてて、滝のかみをよどめてゆるくながしかけつれバ、布をさらしかけた

るやうにみえておつるなり。

糸おちは、水落にかしらにさしいでたるかどあまたある石をたてつれバ、あまたにわかれて、いとをくりかけたる

やうにておつるなり。重おちば水落を二重にたてて、風流なく滝のたけにしたがひて二重にも三重にもおとすな

り。

 

15,或人公、滝をバ、たよりをもとめても月にむかふべきなり。おつる水にかげをやどさしむべきゆへなり。

滝を立ることは口伝あるべし。からの文にもみえたる事、おほく侍るとか。不動明王ちかひてのたまはく、滝ハ三

尺になれバ皆我身也。いかにいはむや四尺五尺乃至一文二丈をや。このゆへにかならず三尊のすがたにあらハる。

左右の前石ハ二童子を表するか。

不動儀軌云、

  見我身者  発菩提心  聞我名者  断悪修善  故名不動云々

我身をみばとちかひたまふ事ハ、必青黒童子のすがたをみたてまつるべしとにハあらず。常滝をみるべし、とな

り。不動種々の身をあらハしたまふなかに、以滝本とするゆへなり。

 

16,遣水事

一、先水のみなかみの方角をさだむべし。経云、東より南へむかへて西へながすを順流とす。西より東へながすを

逆流とす。しかれバ東より西へながす、常事化。又東方よりいだして、舎屋のしたをとおして、未申方へ出す、最

吉也。青竜の水をもちて、もろもろの悪気を白虎のみちへあらひいだすゆへなり。その家のあるじ疫気悪瘡のやま

ひなくして身心安楽寿命長遠なるべしといへり。

四神相応の地をえらぶ時、左より水ながれたるを、青竜の地とす。かるがゆへに遣水をも殿舎もしハ寝殿の東より

出て、南へむかへて西へながすべき也。北より出ても、東へまわして南西へながすべき也。経云、遣水のたわめる

内ヲ竜の腹とす、居住をそのハらにあつる、吉也。背にあつる、凶也。又北よりいだして南へむかふる説あり。北

方ハ水也。南方ハ火也。これ陰をもちて、陽にむかふる和合の儀歟。かるがゆへに北より南へむかへてながす説、

そのりなかるべきにあらず。

水東へながれたる事ハ、天王寺の亀井の水なり。太子伝云、青竜常にまもるれい水、東へながる。この説のごとく

ならば、逆流の水也といふとも、東方にあらば吉なるべし。

 

17,弘法大師高野山ニいりて、勝地をもとめたまふ時、一人のおきなあり。大師問テのたまはく、此山に別所建立

しつべきところありや。おきなこたへていはく、我領のうちにこそ、昼ハ紫雲たなびき、夜ハ露光をはなつ五葉の

松ありて、諸水東へながれたる地の、殆国城をたてつべきハ待れといへり。但諸水の東へながれたる事ハ、仏法東

漸の相をあらはせるとか。もしそのぎならバ、人の居所の吉例にハあたらざらむか。

或人云、山水をなして、石をたつる事ハ、ふかきこゝろあるべし。以土為帝王、以水為臣下ゆへに、水ハ土のゆる

すときにハゆき、土のふさぐときにハとゞまる。一云、山をもて帝王とし、水をもて臣下とし、石をもて輔佐の臣

とす。かるがゆへに、水ハ山をたよりとして、したがひゆくものなり。但山よはき時ハ、かならず水にくづさる。

是則臣の帝王をおかさむことをあらハせるなり。山よはしといふハ、さゝへたる石のなき所也。帝よハしといふ

ハ、輔佐の臣なき時也。かるがゆへに、山ハ石によりて全く、帝ハ臣によりてたもつと云へり。このゆへに山水を

なしてハ、必石をたつべきとか。

 

18,一、水路の高下をさだめて、水をながしくだすべき事ハ、一尺に三分、一丈に三寸、十文に三尺を下つれバ、

水のせゝらぎながるゝこと、とゞこほりなし。但値すゑになりぬれバ、うるハしきところも、上の水にをされてな

がれくだる也。当時ほりながして水路の高下をみむことありがたくハ、竹をわりて地にのけざまにふせて、水をな

がして高下をさだむべき也。かやうに沙汰せずして、無左右く屋をたつることは、子細をしらざるなり。水のミな

かみ、ことのほかにたかゝらむ所にいたりてハ、沙汰にをよばず。山水たよりをえたる地なるべし。道水ハいづれ

のかたよりながしいだしても、風流なく、このつまかのつま、この山かの山のきはへも、要事にしたがひて、ほり

よせよせおもしろくながしやるべき也。

南庭へ出すやり水、おほくハ透渡殿のしたより出テ西へむかへてながす、常事也。又北対よりいれて二棟の屋のし

たをへて透渡殿のしたより出ス水、中門のまへより池へいる〓常事也。

 

19,遣水の石を立る事は、ひたおもてにしげくたてくだす事あるべからす。或透廊のしたより出る所、或山鼻をめ

ぐる所、或池へいる〓所、或水のおれかへる所也。この所々に石をひとつたてゝ、その石のこはむほどを、多も少

もたつべき也。

 遣水ニ石をたてはじめむ事ハ、先水のおれかへりたわみゆく所也。本よりこの所に石のありけるによりて、水

の、えくづさずしてたわミゆけバ、そのすぢかへゆくさきハ、水のつよくあたることなれバ、その水のつよくあた

りなむとおぼゆる所に、廻石をたつる也。すゑざまみなこれになずらふべし。自余の所々はた〓わすれざまに、よ

りくる所々をたつる也。とかく水のまがれる所に、石をおほくたてつれバ、その所にて見るハあしからねども、遠

くてミわたせバ、ゆへなく石をとりおきたるやうにみゆる也。ちかくよりてみることはかたし。さしのきてみむ

に、あしからざるべき様に、立べき也。

 

20,遣水の石をたつるにハ、底石、水切の石、つめ石、横方、水こしの石あるべし。これらはミな根をふかくいるべきとぞ。

横石は事外ニすぢかへて中ふくらに、面を長くみせしめて、左右のわきより水を落たるが、おもしろき也。ひたお

もてにおちたる事もあり。

遣水谷川の様ハ、山ふたつがハざまより、きびしくながれいでたるすがたなるべし。水をちの石は、右のそばへお

としつれバ、又左のそバヘそへておとすべき也。うちゝがへうちゝがへこゝかしこに、水をしろくみすべき也。す

こしひろくなりぬるところにハ、すこしたかき中石をゝきて、その左右に横石をあらしめて、中石の左右より水を

ながすべき也。その横石より水のはやくおつる所にむかへて、水をうけたる石をたてつれバ、白みわたりておもし

ろし。

 

21,一説云、遣水ハそのミなもと、東北西よりいでたりといふとも、対屋あらばその中をとおして、南庭へながし

いだすべし。又二棟の屋のしたをとをして、透渡殿のしたより出て池へいるゝ水、中門の前をとおす、常事也。

又池ハなくて遣水バかりあらば、南庭に野筋ごときをあらせて、それをたよりにて石ヲ立べし。

又山も野筋もなくて、平地に石をたつる、常事也。但池なき所の遣水ハ、事外ニひろくながして、庭のおもてをよ

くよくうすくなして、水のせゝらぎ流ヲ堂上よりミすべき也。

遣水のほとりの野筋にハ、おほきにはびこる前栽をうふべからず。桔梗、女郎、われもかう、ぎぼうし様のものを

うふべし。

又遣水の瀬々にハ、横石の歯ありて、したいやなるををきて、その前にむかへ石ををけバ、そのかうべにかゝる水

白みあかりて見べし。

又遣水のひろさは、地形の寛狭により、水の多少によるべし。二尺三尺四尺五尺、これミなもちゐるところ也。家

も広大に水も巨多ならば、六七尺にもながすべし。

 

22,立石口伝

石をたてんハ、先大小石をはこびよせて、立べき石をばかしらをかミにし、ふすべき石をばおもてをうへにして、

庭のおもにとりならべて、かれこれがかどをふみあハせ、えうじにしたがひて、ひきよせたつべき也。

石をたてんにハ、まづおも石のかどあるをひとつ立おおせて、次々のいしをバ、その石のこはんにしたがいひて立

べき也。

石をたてんに、頭うるハしき石をば、前石にいたるまでうるハしくたつべし。かしらゆがめる石ヲバ、うるハしき

面にみせしめ、おほすがたのかたぶかんことは、かへりミるべからず。

又岸より水そこへたていれ、また水そこより岸へたてあぐるとこなめの石ハ、おほきにいかめしくつづかまほしけ

れども、人のちからかなふまじきことなれバ、同色の石のかど思あたらんをえらびあつめて、大なるすがたに立な

すべきなり。

石をたてんにハ、先左右の脇右前石を寄立むずるに、思あらぬべき石のかどあるをたてをきて、奥石をばその石の

乞にしたがひてたつるなり。

 

23,或人口伝云

そわがけの石は、屏風を立てるがごとし。

すぢかへやり、とをよせかけたるがごと。きざハしをわたしかけたるがごとし。山のふもとならびに野筋の石ハ、

むら犬のふせるがごとし。豕むらの、ハしりちれるがごとし。小牛の母にたハぶれたるがごとし。

凡石をたつる事ハ、にぐる石一両あれバ、をふ石ハ七八あるべし。たとへバ童部の、とてうとてうひひくめ、とい

ふたハぶれをしたるがごとし。

石をたつるに、三尊仏の石ハたち、品文字の石ハふす、常事也。

又山うけの石ハ、山を切り立てん所にハ、おほくたつべし。しばをふせんにはに、つづかむところにハ、山と庭と

のさかゐ、しバのふせハてのきはにハ、わすれざまに、たかからぬいしをすゑもし、ふせもすべき也。

又立石ニきりかさね、かぶりがた、つくゑがた、桶すゑといふことあり。

又石を立にハ、にぐる石あれバおふいしあり、かたぶくいしあれバささふるいしあり、ふまふる石あれバうくる石

あり、あふげる石あれバうつぶける石あり、たてる石あれバふせる石あり、といへり。

 

24,石をバつよくたつべし。つよしといふは、ねをふかくいるべきか。但根ふかくいれたりといへども、前石をよ

せたてざれバ、よはくみゆ。あさくいれたれども、前石をよせつれバ、つよく見ゆるなり。これ口伝也。石をたて

てハ、石のもとをよくよくつきかためて、ちりバかりのすきまもあらせず、つちをこむべきなり。石のくちバかり

にみたるハ、あめふれバすすがれて、つひにうつをになるべし。ほそき木をもちて、そこよりあくまでつきこむ

也。

石をたつるにハ、おほくの禁忌あり。ひとつもこれを犯つれバ、あるじ常ニ病ありて、つひに命をうしなひ、所の

荒廃して必鬼紙のすみかとなるべしといへり。

 

25,其禁忌といふハ 

一もと立たる石をふせ、もと臥る石をたつる也。かくのごときしつれバ、その石かならず霊石となりて、たたりを

なすべし。

一ひらなる石のもとふせたるを、そばだて、高所よりも下所よりも、家にむかへつれバ、遠近をきらはず、たたり

をなすべし。

一高さ四尺五尺になりぬる石を、丑虎方に立べからず。或ハ霊石となり、或魔縁入来のたよりとなるゆへに、その

所ニ人の住することひさしからず。但未申方に三尊仏のいしをたてむかへつれバ、たたりをなさずう。魔縁いりき

たらざるべし。

一家の縁より高き石を、家ちかくたつべからず。これををかしつれバ、凶事たえずして、而家主ひさしく住する事

なし。但堂社ハそのハバかりなし。

 

26,一三尊仏の立石を、まさしく寝殿にむかふべからず。すこしき余方へむかふべし。これををかす不吉也。

一庭上に立る石、舎屋の柱のすぢにたつべからず。これををかしつれバ、子孫不吉なり。悪事によりて財をうしな

ふべし。

一家の縁のほとりに大なる石を北まくらならびに西まくらにふせつれバ、あるじ一季をすござず。凡大なる石を縁

ちかくふする事ハ、おおきにはばかるべし。あるじとどまりぢうする事なしといへり。

一家の未申方のはしらのほとりに、石をたつべからず。これををかせば、家中ニ病事たえずといへり。

一未申方に山ををくべからず。ただし道をとほらバはばかりあるべからず。山をいむ事ハ、白虎の道をふさがざら

んためなり。ひとへに□てつきふたがん事ハ、ハバかりあるべし。

一山をつきて、そのたにを家にむかふべからず。これおむかふる女子、不吉云々。又たにのくちを□むかふべから

ず。すこしき余方へむかふべし。

一臥石を戌亥方にむかへべからず。これををかしつれバ、財物倉にとどまらず、奴畜あつまらず。又戌に水路をと

をざす。福徳戸内なるがゆへに、流水ことにハバかるべしといへり。一雨したりのあたるところに、石をたつべか

らず。そのとバしりかかれる人、悪瘡いづべし。檜皮のしたたりの石にあたれるその毒をなすゆへ也。或人云、檜

山杣人ハ、おほく足にこ□病ありとか。

一東方に余石よりも大なる石の、白色なるをたつべからず。其主ひとにをかさるべし。余方にもその方を剋せらむ

色の石の、余石よりも大ならむを、たつべからず。犯之不吉也。

 

27,一名所をまねバんには、その名をえたらん里、荒廃したらば、其所をまなぶべからず。荒たる所を家の前にう

つしとどめん事、ハバかりあるべきゆへなり。

一弘高云、石□荒涼に立べからず。石ヲ立にハ、禁忌事等侍也。其禁忌をひとつも犯つれバ、あるじ必事あり。其

所ひさしからずと云る事侍りと云々。

山若河辺に本ある石も其姿をえつれバ、必石神となりて、成崇事国々おほし。其所に人久からず。但山をへだて、

河をへだてつれバ、あながちにとがたたりなし。

一霊石は自高峯丸バし下せども、落立ル所ニ不違本座席也。如此石をバ不可立可捨之。

又過五尺石を寅方ニたつべからず。自鬼門入来鬼也。

 

28,一荒磯の様ハ面白けれども、所荒て不久不可学也。

一嶋ををく事ハ、山嶋を置て、海のはてを見せざるやうにすべきなり。山のちぎれたる隙より、わづかに海を見す

べきなり。

一峯の上に又山をかさぬべからず。山をかさぬれバ、崇の字をなす。水ハ随入物成形、随形成善悪也。然ば池形よ

くよく用意あるべし。

一山の樹のくらき所ニ、不可畳滝云々。此条は□あるべし。滝ハ木ぐらき所より落たる□そ面白けれ。古所もさの

みこそ侍めれ。なかにも実の深山にハ、人不可居住。山家の辺などに聊滝をたくみて、其辺に樹をせん、はばかり

なからむか。不植木之条、一向不可用之。

一宋人云、山むしハ河岸の石のくづれおちて、もとのかしらも根になり、もとの根もかしらになり、又そばだてた

るもあり、のけふせるもあれども、さて年をへて色もかはりこけもおひぬるハ、人のしわざにあらず、をのれがみ

づからしたる事なれバ、その定に立も臥もせむも、またくはばかりあるべからず云々。

 

29,一池はかめ、もしハつるのすがたにほるべし。水ハうつはものにしたがひてそのかたちをなすものなり。又祝

言をかなにかきたるすがたそなど、おもひよせてほるべきかなり。

一池ハあさかるべし。池ふかけれバ魚大なり。魚大なれバ悪虫となりて人を害□。

一池に水鳥つねにあれバ、家主安楽也云々。

一池尻の水門は未申方へ可出也。青竜の水を白虎の道へむかへて、悪気をいだすべきゆへなり。池をバ常さらさら

ふべきなり。

一戌亥方に水門をひらくべからず。これを寿福を保所なるゆへなり。

一水をながすことは、東方より屋中をとおして、南西へむかって、諸悪気おすすがしむるなり。是則青竜の水をも

て諸悪を白虎の道へ令洗出也。人住之ば、呪詛をはず、悪瘡いでず、疫気なし、といへり。

 

30,石をたつるに、ふする石ニ立てる石のなきは、くるしみなし。立る石ニ左右のわき石、前石ニふせ石等ハ、か

ならずあるべし。立る石をただ一本づつかぶとのほしなんどのごとくたてをくことは、いとおかし。

一ふるきところに、をのづからたたりをなす石なんどあれバ、その石を剋するいろの石をたてまじへれバ、たたり

をなす事なしといへり。又三尊仏の立石をバ、とをくたてむかふべしといへり。

一屋ののきちかく、三尺ニあまれる石を立ること、大ニはばかるべし。東北院ニ蓮仲法師がたつるところの石、禁

忌ををかせることひとつ侍か。

 

31.或人のいはく、人のたてたる石ハ、生得の山水ニはまさるべからず。但おほくの国々をみ侍しに、所ひとつに

あはれおもしろきものかなと、おぼゆる事あれど、やがてそのほとりに、さうたいもなき事そのかずありき。人の

たつるにハ、かのおもしろき所々ばかりを、ここかしこにまなびたてて,かたはらにそのごとくなき石、とりおく

事ハなきなり。

石を立るあひだのこと、年来ききをよぶにしたがひて、善悪をろんぜず、記置ところなり。延円阿闍梨ハ石をたつ

ること、大旨をこころえたりといへども、風情をつたへえたり。如此あひいとなみて、大旨をこころえたりといへ

ども、風情つくることなくして、心なんどをみたるばかりにて、禁忌をもわきまえず、をしてする事にこそ侍め

れ。高陽院殿修造の時も、石をたつる人みなうせて、たまたまさもやとて、めしつけられたりしものも、いと御心

にかなはずとて、それをバさる事にて宇治殿御みづから御沙汰ありき。其時には常参て、石を立る事能々見きき侍

りき。そのあひだよき石もとめてまいらせたらむ人をぞ、こころざしある人とハしらむずると、おほせらるるよし

きこえて、時人、公卿以下しかしながら辺山にむかひて、石をなんもとめはべりける。

 

32一、樹事

人の居所の四方に木をうゑて、四神具足の地となすべき事 

経云、家より東に流水あるを青竜とす。流水なもしそのけれバ、柳九本をうゑて青竜の代とす。西に大道あるを白

虎とす。若其大道なけれバ、楸七本をうゑて白虎の代とす。

南側に池あるを朱雀とす。若その池なけれバ、桂七本うゑて朱雀の代とす。

北後にをかあるを玄武とす。もしその岳なけれバ、檜三本うゑて玄武の代とす。かくのごときして、四神相応の地

となしてゐぬれバ、官位福禄そなはりて、無病長寿なりといへり。

凡樹ハ人中天上の荘厳也。かるがゆヘニ、孤独長者が祗洹精舎をつくりて、仏ニたてまつらむとせし時も、樹のあ

たひにわずらひき。しかるを祗蛇大子の思やう、いかなる孤独長者か、黄金をつくして、かの地しきみてて、その

あたひとして、精舎をつくりて、尺尊ニたてまつるぞや。我あながちに樹の直をとるべきにあらず。ただこれを仏

にたてまつりてむとて、樹を尺尊にたてまつりをはりぬ。かるがゆへに、この所を祗園給孤独薗となづけたり。祗

蛇がうゑにき孤独がその、といへるこころなるべし。秦始皇が書を焼き、儒をうづみしときも、種樹の書おばのぞ

くべしと、勅下したりとか。仏ののりをとき、神のあまくだりたまひける時も、樹をたよりにとしたまへり。人屋

尤このいとなみあるべきとか。

樹は青竜白虎朱雀玄武のほかハ、いづれの木をいずれの方にうへむとも、こころにまかすべし。但古人云、東ニハ

花の木をうへ、西ニはもみぢの木をうふべし。若いけあらば、嶋ニハ、松柳、釣殿のほとりニハかへでやうの、夏

こだちすずしげならん木をうふべし。

槐ハかどのほうにうふべし。大臣の門に槐をうゑて槐門となづくること、大臣ハ人を懐て、

帝王につかうまつらしむべきつかさとか。門前に柳をうふること、由緒侍か。但門柳ハしかるべき人、若ハ時の権

門にうふべきとか。これを制止することハなけれども、非人の家に門柳うふる事ハ、みぐるしき事とぞ承侍し。つ

ねにむかふ方ニちかく、さかきをうふることは、はばかりあるべきよし承こと侍りき。門の中心ニあたるところに

木をうふる事、はばかるべし。閑の字になるべきゆへなり。方円なる地の中心に樹あれバ、そのいゑのあるじ常に

くるしむことあるべし。方円の中木ハ、因の字なるゆえなり。又方円地の中心ニ屋をたててゐれば、その家主禁ぜ

らるべし。方円中ニ人字あるハ、因獄の字なるゆへなり。

如此事にいたるまでも、用意あるべきなり。

 

34一、泉事

人家ニ泉ハかならずあらまほしき事也。暑をさること泉にハしかず。しかれバ唐人必つくり泉をして、或蓬莱をま

なび、或けだもののくちより水をいだす。天竺にも須達長者祗洹精舎をつくりしかバ、堅牢地神来て泉をほりき。

すなはち甘泉是也。吾朝にも、聖武天皇東大寺をつくりたまひしかバ、小壬生明神泉をほれり。絹索院の閼伽井是

也。このほかの例、かずへつくすべきにあらず。泉ハ冷水をえて、屋をつくり、おぼいづつをたて、簀子をしく、

常事なり。冷水あれどもその所ろ泉にもちゐむこと便宜あしくは、ほりながして、泉へ入べし。あらはにまかせい

れたらむ念なくハ、地底へ箱樋を泉の中へふせとおして、そのうへに小づつをたつべきなり。若水のありどころ、

いずみより高き所ニあらば、樋を水のいるくちをバ高て、すゑざまをバ次第ニさげて、そのうゑに中づつをすふべ

し。ただしそのつつよりあまりいづるなり。ふせ樋ハ、やきたるかわらもあしからず。

作泉にして井の水をくみいれむニハ、井のきはに大きななる船を台の上に高くすゑて、そのしたよりさきのごとく

箱樋をふせて、ふねのしりより樋のうへハ、たけのつつをたてとをして、水をくみいるれバ、をされて泉のつつよ

り水あまりいでてすずしくみゆるなり。

泉の水を四方へもらさず、底へもらさぬしだい。先水せきのつつのいたのとめを、すかさずつくりおおせて、地の

そこへ一尺ばかりほりしづむべし。そのしづむる所は、板をはぎたるおもくるしみなし。底の土をほりすてて、よ

きはにつちの、水いれてたわやかにうちなしたるを、厚さ七八寸ばかりいれぬりて、そのうへにおもてひらなる石

をすきまなくしいれしいれならべすゑて、ほしかためて、そのうへに又ひらなる石のこかはらけのほどなるをそこ

へもいれず、ただならべをきて、そのうへに黒白のけうらなる小石をバしくなり。

一説、作泉をば底へほりいれずして、地のうへにつつを建立して、水をすこしものこさず、尻へ出すべきやうにこ

しらうべきなり。くみ水ハ一二夜すぐれバ、くさりてくさくなり、虫のいでくるゆへに、常ニ水をばいるるなり。

地上ニ高くつつをたつるにも、板をばそこへほりいるべきなり。はにをぬる次第、さきのごとし。板の外のめぐり

をもほりて、はにをバいるべきなり。簀子をしく事ハ、つつの板より鼻すこしさしいづるほどにしく説あり。泉を

ひろくして、立板よりニ三尺水のおもへさしいで、釣殿のすのこのごとくしく説もあり。これハ泉へおるる時、し

たのこぐらくみえて、ものおそろしきけのしたるなり。但便宜にしやがひ、人のこのみによるべし。当時居所より高き地ニほり井あればバ、その井のふかさほりとをして、そこの水ぎはより樋をふせ出しつれバ、樋よりながれい

づる水たゆる事なし。

 

37一、雑部

唐人が家にかならず楼閣あり。高楼はさることにて、うちまかせては、軒みじかさを楼となづけ、軒長を閣となづ

く。楼は月をみむがため、閣はすすしからしめむがためなり。軒長屋は夏すずしく、冬あたたかなるゆへなり。